<第5章 正統を受け継ぐ>
伝統は「NEW」の連続 〜 時代のニーズを捉えて常にチャレンジ
私の草木染の手法は、「浸染(しんせん)」と言ってザブンと浸けて染めるので“どぶ染め”とも言います。染料は草木や鉱物、虫など、あくまでも自然にあるものから染料を取り出し、先人が伝えた数々の知恵を頼りに、明治以前にやっていた伝統的な染めを基準にしています。ですからむしろ自然染め、あるいは昔からある伝承染とも言えるでしょう。その上で染物としての可能性を模索し、新しい染めの技術、技法を進化させてきました。
草木染は伝統工芸と位置づけられていますが、伝統を受け継ぐということは、昔のものをそのまま作り続けるということではありません。それでは時代のニーズに合わなくなり、やがては消え去る運命を辿ることにもなりかねません。
伝統を受け継ぐということは、技術の継承はもちろん、日本人独特の繊細な感性・・・例えば「息づかい」や「余韻」、「風情」などの言葉が表すように目に見えないものまで写し取る高い表現力をも受け継ぎながら、一方で日々、時代のニーズに耳を傾け新しいことにもチャレンジしていくことだと思います。
伝統というのは「NEW」の連続です。その意味で、私は日々伝統をつくっていると自負しています。できれば、何の柄もない無地のスカーフの色そのものを楽しんでいただきたいと思っています。
豊かな自然に囲まれ、日本の伝統文化の礎に立ち、日本人としての繊細な感性を磨く日々の中で伝統的手法による新しい草木染にチャレンジする。そして、自然の草木で染めるからこそ、もともと草木が持っているパワーが染めた色に宿る・・・草木染の正統を受け継ぐということは、そういうことだと私は思っています。