病魔を追い払うために使われた「紫根」
紫の染料には、「紫根」「貝紫」「紫香(しこう)」「蘇芳」などがあります。中でも一番大きなパワーを持つのが「紫根」です。漢方では、煎じ液は解熱、解毒、皮膚病の薬として利用されてきました。昔から、“とびひ”といわれる皮膚がただれた状態になったときに紫色のぬり薬を塗っていましたが、実はあれが「紫根」で、塗ると皮膚も紫色に染まり、やがて元のようなきれいな肌になりました。 草(紫草)は夏に白い花をつけ、染料には紫色をしたその根、「紫根」を使います。独特の臭いがあり、それを吸うと肺のなかの雑菌が追い払われ、昔は染めた布を鼻や口の近くに置いて病魔を祓ったと言われます。テレビの時代劇などで病気の殿様が紫の鉢巻を巻いて寝ている場面をよく見かけますが、あれが「紫根」で染めたものです。つまり、病魔を祓う植物の力がそのまま染めた色に宿っているため用いられていたのです。 また、奈良時代に薬や染料として伝わった「紫香」は、法隆寺や正倉院等の織物の染色に多く見ることができます。幸運(ラック)の木についたカイガラムシ(ラック虫)から色を取り出して染料とし、赤紫色を染めます。
◎聖徳太子の冠位十二階
聖徳太子の考案により、「紫」を最高位とし、次に青、赤、黄、白、黒の6色を用い、それぞれの濃淡の濃い方を上位とし身分階級を色で示したとされています。
口に近い首の回りや胸の辺りに 紫色のスカーフを
私を助けてほしい、不安なことから救ってほしい、そんなときに人は本能的に紫に手が出ます。紫の力にすがって降りかかった害悪を振り払いたいという心理からです。そのときは紫色のスカーフを首のまわりや胸の辺りなど息を吸う鼻や口の近くに着けてみてください。
海女さんの魔除けに 使われた「貝紫」
一種類の染料だけで紫色に染まるのは、「紫根」のほかに「貝紫」があります。海に潜ってサザエやアワビを獲る海女さんは、悪鬼貝を割ると出てくるグリーンの体液で潜水帽子の額の辺りに魔除けの紋章を描いて海に入りました。それは酸化発色してやがて紫色に変わります。これを「貝紫」といい、危険と隣りあわせの仕事に降りかかる災いをお祓いするという意味があったのです。